独白

誰にも本心を語らないと決めた人間の最後の独白の場

眩しいものから逃げた話

昔、絵描き同士のオンラインコミュニティに属していた時の話。

 

当時も私はどこにも居場所が無く、また自分の力量の無さに嫌気が差しており、居場所と切磋琢磨できる環境を求めてコミュニティに入った。

 

私が入ったころはまずまずの規模で上手い人間もそこまでたくさんおらず、私は「そこそこ上手い」くらいの部類だったはずだと思う。

 

Twitterやpixivでは誰からも見向きもされていなかったが、そのコミュニティではそこそこの反応が貰えて本当に気が楽になった。今思えばそんな井の中でいい加減な絵を描いてチヤホヤされたところで、無意味なまやかしでしかなかったのだが。

 

そんなコミュニティも徐々にその規模を拡大していき、優秀で意欲旺盛な同年代の人間などがどんどん参入してくるようになった。私は元々抱えていた同年代全般への劣等感が刺激されるのを感じつつも、良い刺激も同時に貰えていたのでそこまで落ち込むことはなかったと思う。

 

彼が現れたのは、それからしばらく経った後のことだ。

私より何個も年下でありながら、絵には既に一流の風格があった。既に自らの方向性、作家性を獲得していた。ネット上でも当たり前のように人気を博していた。

彼には実力も、才能も、伸び代も、人気も、そして未来もあった。私には無いものを全て持っていた。

私は彼越しに、自分の今までの空っぽの全人生を見た。何もかも無駄にした十代。何もしなかった学生時代。実力も才能も、未来すらも最早無い現状。そしてその果ての永遠に無価値な自分。

 

その頃から、そのコミュニティを覗く頻度は段々と減っていった。彼が何かを投稿する度に称賛のコメントの数々がついた。「天才」だなんて言う奴もいた。オッサンがガキ相手にそんな言葉使って自分が惨めにならないのかなと思った。

 

自分の絵に対する反応は変わらなかった。コメントしてくれる人も変わらずいてくれた。けど、結局そんなものがあったところで自分の絵は彼の何もかもには勝てないんだと思うと、急に自分が投稿してきた絵や悩みの相談の数々が馬鹿らしく思えた。なんでこんな下らないことしていたんだろう。なんでこんなゴミみてえな馴れ合いしてたんだろう。

全てを削除した。そして無言で退会した。

 

結局居場所なんて何処にも無いことを悟った。たとえ居場所らしきものを作れたとしても、それは自分の全てを上回っている人間に瞬く間に蹂躙されるんだと悟った。

 

そして、この感情は誰にも理解されない。そして救われることもない。なぜなら、わざわざ弱い者の味方につく者などいないから。そして、万一理解されて誰かを味方につけることができても、それは弱者同士で馴れ合い傷を舐め合う以上のものにはならないからだ。

 

だが本当に最悪なのは、彼から学び盗む絶好の機会を自ら手放したことだ。そらこんなドクソアホじゃいつまで経ってもゴミみてえな創作しかできねえわ。自分の感情優先してチャンスをみすみす逃すんだもんな。それこそガキのやることじゃねえか。

話しかけるべきだった。例え相手が私のことなど眼中に無くても。話しかけることはしなくても、観察するだけでも学び盗めることはあったはずなんだ。

 

もう疲れた